連日報道されている原発事故。地域住民に避難勧告が発令される中、今度は野菜や原乳から放射性物質が検出され、出荷制限がされている。このことで野菜や原乳を廃棄しなければならず、今後の目途が全く立たない。生産農家は悲惨極まりない。同じ生産者の立場なのでその無念さ、悔しさは痛いほどわかる。
自然相手の仕事だから単純に自然災害なら諦めはつく。しかたないな、と思う。お天道さまにはかなわないと思う。動物にもやられた、それでも動物だってお腹をすかせているのだから、しょうがない、と思う。だが、相手は目に見えない放射能だ。どう戦えばいいというのだろう。そしてこのやり場のない気持をどう処理すればよいのだろう。
保証されればいいというわけではない。そんな単純なもので測れるもので生産農家は生きていない。なぜなら…。
野菜は収穫するまで日々(時間)を費やす。栽培計画を立て、耕し、肥料を施し、日々管理をして丹精込めて育てた。その作物が、人間の所業によるものですべてを潰さなければならなくなった。
牛乳はどうか。牛は毎日さく乳しないといけない。そしてさく乳した原乳は即座に捨てる。その分の収入はなく、牛の餌は毎日かかる。えさの飼料代は日に日にかさむばかりだ。
野菜生産も畜産も共に育てるという仕事。だから保証という紙切れで済むものじゃないのだ。それは同じ立場だから痛切に分かる。涙が枯れるほど辛いだろう。だが、もう現実は現実として受け止めるしかない。そうしないと前に進めないからだ。
時間だけは過ぎる中で、各紙で放射性物質についての解説や報道が飛び交っている。ヨウ素は水に溶け、セシウムは土壌に残るという解説もある。そのセシウムは半減期が30年という。こんなものが土壌に残留しては農業をはじめられないではないか。そんな中、興味を引く記事があった。ヒマワリがセシウムを吸収するというのだ。
原発土壌汚染浄化へ
希望のヒマワリ
23日、東京の水道水から放射性ヨウ素が検出され、夕方には福島第一原発3号機から黒煙が上がり、電気系統に不具合が見つかったとの情報も流れた。最悪なのは文部科学省が、福島第一原発から約40㌔離れた土壌で放射性物質である高濃度のセシウム137が検出されたと発表したことだ。絶望的な状況とも思えるが秘策はあった。セシウム137に汚染された土壌を浄化するのに、ヒマワリが効果的という情報をキャッチした―。
体内に取り込むと危険な放射性物質セシウム137は、その強さが半減するまで約30年もの長い歳月がかかるといわれる。こんなものを摂取してしまったら大変だが、その前に何か対策はないのか?
「ヒマワリを植えることで、汚染除去の期間が早くなる」と太鼓判を押すのはある専門家。実はヒマワリには癒し効果以外にとんでもない能力があったのだ。
福島第一原発の放射能漏れ事故により、福島、茨城、栃木、群馬産のホウレンソウなどから基準値を超える放射性物質が検出されている。
さらに、土壌まで汚染されていることが分かり、「場合によっては土壌を入れ替える作業が必要になるかもしれない」(原子力安全保安院)と、事態はかなり深刻だ。
そんなセシウム137を土壌から吸収してくれるといわれているのがヒマワリだ。ツイッターなどで「ヒマワリには放射性物質を吸収する力がある」との情報が広がっているが、本当なのか?
滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科の長谷川博教授は、「ファイトレメディエーションという技術で、植物の持つ環境を浄化する力を利用して、土にある汚染物質を植物に吸収させるという方法があります。放射性物質の除去にも役立つといわれています」と話す。
栄養と間違って根から吸収?
あのチェルノブイリ周辺にも植えられる
ヒマワリに効果はどれほどなのか。「セシウムの吸収については日本で研究している人はおらず、正式な発表はありません。しかし、ヒマワリを植えた方がいいとアドバイスはできます(長谷川教授)。
セシウム吸収の仕組みは、植物にとって3大栄養素といわれる窒素・リン酸・カリウムが関係していた。「簡単に言ってしまうと、3大栄養素であるカリウムとセシウムを‘間違って’ヒマワリが根から吸収してしまうんです。ヒマワリが効果的と言われるのは、大きな植物でそれなりのキャパシティがあるから。ヒマワリを植えることで土壌汚染の除去が早くなるでしょう」(同)。
半減期30年のセシウムを土壌に放っておくよりは、かなり効果的であるのは間違いなさそうだ。
ところで、セシウムを吸収したヒマワリは大丈夫なのか。
「根から吸い上げたセシウムは根はもちろん、葉っぱや茎に残るので、成長したヒマワリを土から抜き取った後は燃やして灰にします。セシウムがなくなるわけではないので、この灰は厳重な管理の下、保管される必要があります」(同)。セシウムが分解されたりはしないので、取り扱いには注意がいる。
チェルノブイリ原発事故があったときも、周辺にヒマワリが植えられたという。ネットでは「福島にヒマワリを植えよう」という呼びかけも始まっており、将来、福島原発周辺がヒマワリ畑になっているかもしれない―。
2011年 3月25日 東京スポーツ
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ヒマワリと言えば戦争映画である「ひまわり」。ソフィア・ローレン演じるジョバンナが遠くロシア(ソ連)へ赴き、夫であるアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)の幸せな家庭を知ったのち、傷心の中で一面に広がるロシアヒマワリの畑を歩くシーンが思い出される。そのヒマワリが咲く地面の下には、たくさんの戦死者が眠っていたのだ。太陽や笑顔の象徴であるヒマワリは、そうした悲しみや放射性物質までも吸収して大輪を咲かせる、ものすごい植物だった。ヒマワリの存在を見直した。今年畑に種を蒔こうと思う。